フアイアについて調べている

中国の抗がん新薬「フアイア(Huaier)」は可能性がありそうな気がする

大したことない効果を大げさに見せるテクニック【小林製薬シイタケ菌糸体】

がん関連で検索すると、よく出てくる小林製薬のパブリシティ記事。

gan-senshiniryo.jp

蕗書房という、出版社だかネット媒体だかわからないサイトに掲載されている。スポンサーがお金を払って載せたものかよくわからないが、その可能性は高いと思っている。

この記事の結論としては(読者に与えるイメージとして)小林製薬がシイタケ菌糸体サプリを作っていて、がんに不安のある人は小林製薬のシイタケサプリを調べたら?と思わせる作りになっている。

京大大学院出の開発者が出てきて、研究だ実験だととてもマジメに考えていますよ、という印象をもたせるようになっている。

記事を読み進めたら「二重盲検検査」という、一般には耳慣れない単語が出てくる。これは医薬品やサプリの本物と偽薬(プラセボ)を比較する検査で、味も姿形もほぼ同じ2種類を用意する。同じような患者さんを準備して、くじ引きでどちらを飲むか決める。投与する医師も本物か偽薬かわからない。患者も医師もわからないから「二重盲検」なのである。思い込みを排除することによって検査の正確性を担保するものである。

エビデンスレベルとしては非常に高い。信頼度のある検査なのである。この記事でも「二重盲検法はすごいよー」という印象を与えている。ああ、小林製薬はマジメなんだね、と思わせるよい作りになっている。

さて今回はこの記事にツッコミを入れてみる。

1.記事で自慢している研究とは?

 

まず当該記事の「研究の成果」にある

 QOL、免疫低下のモデルにおいて、プラセボ群に比べシイタケ菌糸体摂取群では有意にQOL(QOL-ACD)、免疫抑制状態(Tregの増加)が改善された。

これを解説したい。

もとの論文によると、47人の乳がん患者を無作為に本物と偽薬群に分ける。抗がん剤治療において、すでに広く使用されている副作用を抑える薬とシイタケ菌糸体サプリを併せて摂取するグループと、副作用を抑える薬と偽薬を併せて摂取するグループで、3週間ずつ2クール飲ませてみた。その結果、免疫抑制状態(Tregの増加)とQOLの維持改善がよかった、というものである。

つまり、抗がん剤副作用抑止薬の効果を高めて辛さや症状を緩和し、また、免疫力もアップするよ、と示唆しているのである。 

2.Molecular and Clinical Oncology誌とは

オープンアクセス論文。これは、研究して発表してほしい方がお金を払って掲載してもらうというもの。本来、論文の閲覧にはお金がかかっていたのだが、オープンアクセス誌は社会貢献のため、誰にでも無料で論文を見ていただける、ということが基礎理念になっている。しかし事業のためにはお金がかかるので、それを掲載してほしい方からもらう、という仕組みである。なおこの手法は一般化しており、特に非難されるものではない。

それにしても、Molecular and Clinical Oncology誌は、インパクトファクター(IF)が0.98しかない。1以下の論文誌=権威性がほとんどない、と言える。これは他の研究者から引用される可能性がほとんどない(あまり他の研究者の参考にならない)、とほぼ同義語。論文掲載にあたって、厳密な査読がない、というようなことも低評価の一つだと思われる。

筆者のブログではフアイアの研究をいろいろ紹介しているが、さすがにIFが1以下というものはない。その辺のことを知りたい方は「インパクトファクター 1以下」で検索されるとわかるだろう。

3.二重盲検検査で大事なポイント

記事内では触れられていない(あえて触れていない?)ポイントを解説する。

3−1.エンドポイントをどこに置くか

実は研究の結果というものは作れるのである。1つの実験の際にあらゆる項目を測定し、都合のいい結果だけを発表すればいいのである。どの部分を切り取るかは研究者次第。それでは研究の公平性というものは保てない。

自信がある研究だったり、世のため人のため解明しておく必要があると思った研究は、実は開始前に研究内容を登録する制度がある。有名どころでは、アメリカのClinicalTrials.gov。いつエントリーして、人数を締め切って、などという経過がざっくりではあるがわかるようになっている。研究のアップデートがあれば申請者から更新される。研究が進んでいるかどうか一目でわかるのである。

今回の小林製薬が自慢げに発表している結果は、この登録した形跡がいっさいない。この時点で言わずもがななのである。

エンドポイントとは、治験(臨床試験)における治験薬の有効性や安全性をはかるための評価項目である。有効性があると客観的に判断できるか、また結果に普遍性が認められるかが重要となる。「本当に効果があるかどうかをどこで判別しますか?」ということ。

がんにおいて最強なのは、無再発生存率であり、それに準じるのが、生存率、無再発率、無転移率などであろう。さらにQOLの改善率、副作用の軽減率などもある。今回の研究はこの後者2つを一応の目標としたらしい。

しかし治験の短期間(今回は6週間)では、シイタケ菌糸体がそこまで聞いているかどうかはなかなか実証できない。QOLについてはアンケートを、免疫状態の維持については、NK細胞の活発化やTregの増加という数値で計測して、それにより維持があるのではないかと想定しているのである。

ちなみに当ブログで紹介した「GUTに掲載されたフアイア研究結果」のエンドポイントは、肝臓がん手術後の患者の96週間無再発生存率で有意差、である。

3−2.治験例数も大事

研究にどれだけの人が参加したか、ということ。小林製薬の実験では、50例(人)未満だった。規模で言えば1つの大学や大学病院、基幹病院でできるくらいのケース。国や自治体、大メーカーを巻き込んで数百人規模やそれ以上になると、大掛かりな研究ということが言える。信頼性も大きく異なる。

ちなみに当ブログで紹介した「GUTに掲載されたフアイア研究結果」の治験数はほぼ1,000人で複数の医療機関が協力している。日本ではなかなかできる規模ではない。研究者であればぜひ行ってみたい大掛かりな規模だ。

4.今回の研究の要旨

副作用抑止剤と併せてシイタケ菌糸体を飲んだ場合、患者さんのQOLは、プラセボ群よりも良かった。

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図1.-調査中のQOLスコア。 QOLは、生物学的反応修飾因子(FACT-BRM)バージョン4を投与された患者の癌治療の機能評価によって測定され、アンケートのスコアから評価されました。 表示されている測定値は、平均値±標準誤差です。 各グループ内の変動は、最初のコースの1日目と比較して、スティールテストとクラスカルワリステストによって分析されました。 * P <0.05; ** P <0.01。 (A)合計スコア、(B)FACT-G合計スコア、(C)PWBスコア、(D)FWBスコア。 QOL、生活の質; LEM、Lentinula edodes菌糸体エキス; PWB、身体的幸福; FWB、機能的幸福; FACT-G、がん治療の機能的評価の一般的な尺度。

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図2.-研究期間中の末梢血のCD4陽性細胞における制御性T細胞(Treg)。 CD4陽性細胞中のCD25陽性FoxP3陽性細胞の割合を、フローサイトメトリーを使用して測定しました。 この図は、ベースラインからの値の変化を示しています(最初のコース、薬物投与前の1日目)。 測定値は平均値±標準誤差として表示されます。 黒いバー、LEMグループ。 白いバー、プラセボグループ。 ボンフェローニの補正対最初のコースの1日目を用いて、一元配置分散分析を繰り返して、各グループ内の変動を分析しました。 * P <0.05; ** P <0.01。 2つのグループ間の変動は、対応のないt検定によって分析されました。 LEM、Lentinula edodes菌糸体エキス; FoxP3、フォークヘッドボックスp3。

 NK細胞活性は、化学療法の最初と2番目の両方のコースの8日目に、両方のグループのベースライン値から有意に減少しました。 LEM(シイタケ菌糸体)グループでは、2番目のコースの22日目にNK細胞の活性も低下しました。末梢血CD4 +細胞(FoxP3 + CD25 + / CD4 +)のTregの割合は、最初の化学療法コースの8日目にLEM群で有意に減少しました。プラセボ群では、その割合は両方の化学療法コースの22日目のベースライン値から有意に増加しました。 LEMグループでさえ、割合は2回目の化学療法コースの22日目のベースライン値から有意に増加しましたが、その増加の程度はプラセボグループと比較して低くなる傾向がありました(図2)。 Th1 / Th2バランスは、LEMまたはプラセボグループのいずれにおいても有意な変化を示しませんでした。

研究の原文はこちら

5.まとめ

小林製薬のシイタケ菌糸体は、抗がん剤治療の際に、副作用抑止薬と一緒に服用すると、じゃっかん調子がいい可能性がある。

抗がん剤でダメージを負ったNK細胞も少し改善しやすいかもしれない。それによって抗がん剤の効きが良くなるか悪くなるかは不明。

・がん治療そのものに効果があるかどうかも全く不明

・少しでも調子がいい方法を望まれる方は、費用も高くないだろうから試してみてもいいかもしれない。

・担当者は京都大学大学院を出て、研究レベルが誇れるものかどうかわかってるのにあえて言ってないのだな、と。